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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)194号 判決 1991年6月26日

原告

永井隆子

被告

藤原勉

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自被告藤原勉において金一五〇万一二七二円、被告井上政之において金五三六万二七七五円及び右各金員に対する昭和六〇年二月一一日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告藤原勉間の分は、これを一〇分し、その九を原告の、その一を被告藤原勉の各負担とし、原告と被告井上政之間の分は、これを五分し、その二を原告の、その三を被告井上政之の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一三七四万〇〇四〇円及びこれに対する昭和六〇年二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原動機付自転車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、右衝突により受傷しその運転車輌を破損されたと主張して、右原動機付自転車の運転者に対して民法七〇九条に基づき、右原動機付自転車の所有者兼右原動機付自転車運転者の使用者に対し自賠法三条及び民法七一五条に基づき、損害の賠償を請求した事件である。

一  争のない事実

1  原告と被告両名に共通

別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)中発生日時、発生場所、原告車と被告車の衝突。

2  原告と被告藤原関係

(一) 被告藤原の本件責任原因(左右安全確認義務違反の過失。民法七〇九条該当。)の存在。

(二) 原告が本件事故により頸部捻挫・腰椎捻挫の受傷をした事実。

(三) 過失相殺関係中

(1) 本件交差点の見通しが悪い事実、右交差点東側入口手前に一時停止の標識が設置されている事実、原告車が本件事故直前時速約二〇キロメートルの速度で右交差点を走行した事実。

(2) 被告藤原作成念書(甲四。以下、本件念書という。)の存在。

(四) 原告が本件事故後被告藤原から本件損害に関し金一〇万〇九二〇円の支払いを受けた事実。

二  争点

1  原告と被告藤原関係

(一) 本件事故中本件事故の態様

(二) 原告の本件受傷中外傷性横隔膜ヘルニアの存否

原告の主張

原告は、本件事故により、外傷性横隔膜ヘルニアの傷害を受けた。

被告藤原の主張

(1) 原告主張の横隔膜ヘルニアは、本件事故によつて発生したものでない。

(2) 仮に右横隔膜ヘルニアが右事故に起因するものであつたとしても、その発生には、横隔膜が先天的に脆弱な原告の素因ないし体質が大きく影響している。

(三) 原告の本件後遺障害の存否

(1) 原告の主張

原告には、次の本件後遺障害が残存している。

(イ) 本件外傷性横隔膜ヘルニアの手術瘢痕。原告の首筋のすぐ真下から胸部・腹部のほぼ中心線を通つているもので、女子が通常着用するVネツクセーター等を着用すると、瘢痕が約一五センチメートルの長さにわたつて露出する。(後遺障害等級七級該当。)

(ロ) 頭痛・腰痛・呼吸困難等。

(2) 被告藤原の主張

原告には、その主張にかかる後遺障害は残存していない。

(四) 原告の本件損害の具体的内容及びその金額(弁護士費用を含む。)

(五) 過失相殺の成否

(1) 原告の過失の存否

(イ) 被告藤原の主張

本件事故現場の交差点は見通しが悪いから右交差点南北道路を走行する原告車にも徐行義務がある。

しかるに、原告は、右事故直前右交差点内において、漫然時速二〇キロメートルの速度で右方の安全を確認しないまま、原告車を走行させた。

本件事故の発生には原告の右過失も寄与しているところ、同人の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当り、斟酌すべきである。

(ロ) 原告の主張

原告は、本件事故直前、本件交差点に進入するに際し、クラクシヨンを鳴らし、交差点左右の安全を確認した。右事故は、原告車が右交差点を通過した直後に発生した。

なお、原告車が進行した右交差点の南北道路は、優先道路である。

よつて、原告には、右事故発生に対する過失がない。

(2) 本件念書の効力

(イ) 原告の主張

(a) 被告藤原は、本件念書において、本件事故の全責任は自分にあることを認めている。

したがつて、同人は、右念書において、原告の右事故に対する過失がないことを認めたものである。

(b) 被告藤原が右念書作成時未成年であつたとしても、同人の親権者であつた藤原千恵子は、右念書の存在及びその作成経緯を知悉しながら、原告に対し何ら異議を述べていない。

加えて、被告藤原は、本件事故後、原告に対し前記のとおり金一〇万〇九二〇円を支払つたが、右金員は、実質的に右千恵子が支払つたものである。

しかし、右千恵子は、右支払いに際し、右念書について何ら異議を留めなかつた。右各事実は、法定追認(民法一二五条)に該当する。

よつて、被告藤原は、右念書の内容をなす意思表示を取消すことができない。

(ロ) 被告藤原の主張

(a) 本件念書には、被告藤原において本件過失相殺を主張する権利を放棄する趣旨まで含まれていない。

右念書の内容は、被告藤原が後日の紛争回避のため同人において右事故に対する責任を負う旨を確認したものに過ぎない。

(b) 仮に右主張が認められないとしても、

(Ⅰ) 被告藤原の右念書の内容をなす意思表示は、要素の錯誤により無効である。

即ち、過失相殺の主張の放棄は、右意思表示の重要事項であるところ、被告藤原は、右念書作成当時一八歳であつて、右念書に過失相殺の主張の放棄の趣旨まで含まれていることについての認識を欠いていた。同人が右認識を有していたならば、右念書の作成をしなかつたであろうから、同人には、この点の錯誤があつた。

(Ⅱ) 被告藤原は、右念書作成時一八歳で、未成年であつた。

そこで、同人は、本訴において、右念書の内容をなす意思表示を取消す。

(六) 損害の填補

原告が本件事故後自賠責保険金金一二〇万円を受領した事実

2  原告と被告井上関係

(一) 本件事故の態様

(二) 被告井上の本件責任原因の存否

(三) 原告の本件損害の具体的内容及びその金額(弁護士費用を含む。)

第三争点に対する判断

一  原告と被告両名関係

本件事故の態様

1  本件事故の発生日時、発生場所、原告車と被告車が衝突したこと、本件事故現場の交差点の見通しが悪いこと、右交差点東側入口手前に一時停止の標識が設置されていること、原告車が右事故直前時速約二〇キロメートルの速度で右交差点を走行したことは、前記のとおり当事者間(ただし、右交差点における一時停止の標識の設置、原告車の本件事故直前の速度は、原告と被告藤原間の分)に争いがない。

2  証拠(乙一ないし三、証人山田、被告藤原本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(一)(1) 本件交差点は、東西道路(右交差点の東側道路は、幅員約四メートルの車道と幅員約二・八メートルの北側歩道からなり、右交差点の西側道路は幅員約五・五メートルで、車歩道の区別はない。)と南北道路(右交差点の南側道路の車道は、幅員四・九メートルであり、右交差点の北側道路の車道幅員は五・一メートルである。)から成る、ほぼ十字型をなす交差点である。(ただし、右交差点の北東角は、角切りの状態で、右交差点東側道路の北側歩道が連続して右交差点北側道路の東側歩道となつている。)

(2) 本件交差点道路は、北行き及び西行きの一方交通である。

又、右交差点は市街地に位置し、交通量は普通である。

(3) 右交差点の南東角には民家が存在して、右交差点東側道路から右交差点南側道路方向へ及び右南側道路から右東側道路方向への各見通しを妨げている。

(二) 原告は、本件事故直前、原告車を右交差点南側道路を北方に向け時速約二〇キロメートルの速度で走行させ、右交差点内に進入し、右交差点内のほぼ中央附近に至つた時、自車右前部附近と右交差点東側道路を西方に向け時速約二〇キロメートルの速度で進行して来た被告車の前部とが衝突し、原告車は、右衝突地点から右交差点北側道路へ約四メートル進行した地点で停止した。

被告藤原は、右衝突直前、右交差点東側入口手前に設置された一時停止の標識があるのに、一時停止をせず、右速度で直進し、路上の右一時停止線を過ぎた附近で、北進して来る原告車を認め衝突の危険を感じ、ハンドルを右へ切り急ブレーキをかけたが間に合ず、右地点で衝突した。

被告車は、右衝突後、そのまま右方(右交差点北側道路方向)へ原告車に追従する形で約三・九メートル進行して停止した。

なお、被告車は、右停止時転倒しなかつた。

(三) 本件事故の態様を図示すると、別紙添付図面二のとおりである。

二  原告と被告藤原関係

1  原告の本件受傷中外傷性横隔膜ヘルニアの存否

(一) 証拠(甲三、五、乙一、五の二、一〇、検甲二の二、三、証人永井、同岡本、原告本人、調査嘱託。)を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 原告車と被告車の本件事故発生時の各速度は前記のとおりであるが、右車輌の右事故後における損傷の程度は、次のとおりであつた。

原告車 右側前部フエンダー凹損、右前部ドアー擦過。

被告車 前輪こすり、泥除け曲損、左前フオーク擦過軽微。

(2) 原告は、本件事故後の昭和六〇年二月一二日、神戸市垂水区瑞ケ丘所在酒井医院において医師酒井正宏の診察を受けたが、その結果、原告の本件受傷は外傷性頸部背椎症腰部挫傷と診断された。

原告は、その後、右医院において右傷病名に相当する治療を受けたが、同年四月一日、胸部レントゲン写真を撮られたところ、心臓部と肺部の間に異常陰影が認められた。原告は、翌二日、再び胸部レントゲン写真を撮られたが、右異常陰影は依然存在した。

原告は、その後、酒井医師から、右異常陰影について特にその実態や発生原因について医学的説明を受けたり治療を受けたりすることなく、従前どおりの治療を受けていた。しかし、原告の右酒井医院における治療は、容易にその効果を挙げず、原告の同年八月末頃の症状は、頭痛、頸痛、目まい等所謂バレー・ルー症候群が強く、酒井医師も、その頃には、原告に対し、神戸市立中央市民病院整形外科への転医を勧めた。

なお、原告は、本件事故以前にも、神戸市実施の主婦対象検診で胸部レントゲン写真を撮つたことがあつたが、その際、神戸市から胸部に右異常陰影の存在を発見指摘されたことはなかつた。

(3) 酒井医師は、同年九月一九日、原告のため右市民病院整形外科医師宛紹介状を書き、同時に、原告に対し、右市民病院において全身の精密検査を受けるよう勧めた。

原告は、同年一〇月二日、酒井医師の右紹介により、右市民病院整形外科に赴き同所で受診したが、その際、撮られた胸部レントゲン写真で、再度、胸部に前記異常陰影の存在が確認された。

(4)(イ) 右市民病院整形外科担当医は、右レントゲン写真の結果に基づき原告を右病院呼吸器内科に紹介し、原告は、右呼吸器内科外来で更に胸部の精密検査を受け、その結果、右呼吸器内科の担当医は、原告の右異常陰影を前縦隔の脂肪腫の疑いと診断した。原告は、右診断に基づき、同月一九日、右病院へ入院のうえ、手術目的で右病院胸部心臓疾患外科へ転科させられた。

(ロ) 右病院胸部心臓疾患外科所属医師岡本交二は、同年一一月二七日、右診断に基づき、原告の胸部手術を実施した。

しかして、右手術所見は、次のとおりであつた。

胸骨を縦切開すると、脂肪腫と見られていたものは、腹腔内腸周囲の脂肪であつて、脂肪腫ではなく、腸管の胸腔内への逸脱であつた。又、横隔膜は、直径約五センチメートルにわたり胸骨下の正中部やや右寄りの部分で欠損していた。

手術により、右欠損部分をダクロンバツチに二縫合閉鎖した。

岡本医師は、原告の右患部について、同人のこれまでの症状歴、その部位等からモクガグニ孔ヘルニア(発生原因不明。成人になつて胸部レントゲン写真上無症状の腫瘤として発見されることが多い。患者の約二〇パーセントに胃部の不定愁訴が多い。)の疑いを持つたが、原告には前記のとおり本件事故以前の胸部レントゲン写真撮影で胸部の異常陰影を指摘されたことがなかつたこと、したがつて、原告の右患部は右事故後発生したものと推認できること、外傷性横隔膜ヘルニアの後記臨床例等から、これを外傷性横隔膜ヘルニアと診断した。

(ハ)(a) 外傷性横隔膜ヘルニアについては、医学書上一般的に、次のとおり説明されている。

右傷病は胸部外傷のみならず、腹部外傷、なかでも骨盤骨折等で急激な腹腔内圧の上昇が起つたときにも発現し、横隔膜の断裂は通常中心腱より放射状に広がり、一般に左側に多く、破裂と同時に胃腸管は胸腔内に脱出する。

外傷性横隔膜ヘルニアの症状としては、急性期の場合と亜急性期や慢性期の場合に分けられるが、慢性期の場合は、ときには受傷後一〇年以上も経て呼吸困難、胸部圧迫感、胸痛等とともに腹痛、悪心嘔吐を示す。この場合には、外傷との関連が見逃がされる症例も存在する。

(b) しかし、臨床的には、右傷病が些細な外力によつて発現した例もあり、又、驚がくして息を詰めたことにより腹腔内圧が上昇して右傷病が発現する可能性もある。

そして、右傷病の症状も、臨床上は、殆ど無症状のものから受傷直後に緊急手術を必要とするものまで存在する。

(c) 原告車と被告車の本件事故による損傷程度は、前記のとおりである。しかして、この外形的事実からすると、原告の本件横隔膜ヘルニアは、医学上、同人の横隔膜が先天的に脆弱であり、これに同人の驚がく(右事故発生に伴う)に基因する腹腔内圧の上昇が加わつて発現したものと推認できる。

(二) 右認定各事実を総合すると、原告の本件外傷性横隔膜ヘルニアは、本件事故に起因するもの、即ち、原告の右傷病と右事故との間に相当因果関係は存在すると認めるのが相当である。

2  原告の本件後遺障害の存否

(一) 確に、証拠(甲三、検甲三の一ないし四)によれば、原告には現在、同人の首筋の下から胸部・腹部のほぼ中心線を通つて前記外傷性横隔膜ヘルニア手術後の瘢痕が存在し、女子が通常着用するようなVネツクセーター等を着用すると、右瘢痕が右セーター等の下部えり元から同人の鎖骨附近まで露出することが認められる。

しかしながら、原告が主張する後遺障害等級七級該当の女子の外貌とは、当該女子の頭部、顔面部、頸部のように、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいうと解するのが相当であるから、原告の右瘢痕露出部分は同人の主張する右障害等級所定の外貌に該当しないというのが相当である。

(二) 原告が主張するその他の後遺障害については、未だその存在を肯認するに足りる客観的証拠がない。

かえつて、証拠(甲三、五、六、乙九の三、証人岡本。)によれば、原告の本件外傷性横隔膜ヘルニアそのものによる後遺障害は、前記手術後存在しないこと、同人の訴える頸部痛等については、レントゲン線検査上著明な異常はなく、神経学的所見も異常がないこと、原告の採つた所謂事前認定手続の結果は非該当であつたことが認められ、右認定各事実に照らしても、原告の右主張事実は未だこれを肯認するに至らない。

(三) 右認定説示から、結局、原告主張の本件後遺障害の存在は、いずれもこれを肯認することができない。

3  原告の本件損害の具体的内容及びその金額

(一) 人損関係

(1) 治療費 金二五万九四三五円

証拠(甲七ないし三二)によれば、原告が本件受傷後の昭和六〇年一〇月三日から本件症状固定日である昭和六一年八月二五日までの間支出した治療費の合計は、金二五万九四三五円であることが認められる。

なお、原告は、右症状固定日以後の治療費をも本件損害として主張請求しているが、症状固定後の治療費は後遺障害に対する治療費となるところ、右治療費が事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)と認められるためには特段の事情の主張を要するというべきである。

しかるに、本件において、右説示にかかる特段の事情の主張・立証がない。

よつて、原告の右主張部分の治療費は、これを本件損害と認め得ない。

(2) 入院付添看護費 金一一万七〇〇〇円

(イ) 証拠(甲五、六、弁論の全趣旨。)によれば、原告は前記外傷性横隔膜ヘルニア手術のため昭和六〇年一一月一九日から同年一二月一四日まで二六日間入院したこと、原告の右入院期間中同人の長女が付添看護に当つたことが認められる。

(ロ) 原告の右入院期間における手術の部位程度は前記認定のとおりであるところ、右認定各事実に基づけば、原告には右入院期間中付添看護が必要であつたというべく、それに相当する費用も本件損害と認める。

しかして、右付添看護費の合計は、一日当り金四五〇〇円の割合で二六日分金一一万七〇〇〇円と認めるのが相当である。

(3) 入院雑費 金三万三八〇〇円

本件損害としての入院雑費は、一日当り金一三〇〇円の割合で二六日分の金三万三八〇〇円と認める。

(4) 通院交通費 金一万二七四〇円

(イ) 証拠(甲六、一〇、一一、一三、一四、弁論の全趣旨。)によれば、原告は本件受傷治療のため昭和六〇年一〇月二日から本件症状固定日の昭和六一年八月二五日までの間実治療日数一三日間神戸市立中央市民病院へ通院したこと、右通院に要する交通費は一日当り金九八〇円(往復分)であつたことが認められる。

(ロ) 右認定各事実に基づくと、本件損害としての通院交通費は、一日当り金九八〇円の割合による一三日分金一万二七四〇円となる。

(5) 休業損害 金二四四万九八〇〇円

(イ) 証拠(甲六、乙三、原告本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(a) 原告は、本件事故当時、五一歳(昭和八年五月六日生)で、家事処理に従事する専業主婦であつたこと、同人は、本件事故日の昭和六〇年二月一〇日から一年間、本件受傷治療のため右家事処理に従事することができなかつたことが認められる。

(b) 原告にも本件休業損害が肯認されるところ、右損害額は、昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計女子労働者五〇才~五四才の平均給与額を基礎に算定するのが相当である。

しかして、右資料によれば、原告の本件事故時における収入は、金二四四万九八〇〇円である。

(c) よつて、原告の本件休業損害は、金二四四万九八〇〇円と認める。

(6) 後遺障害による逸失利益

原告は、本件後遺障害の残存を主張し、これに基づく逸失利益を本件損害として請求している。

しかしながら、原告に本件後遺障害の残存が認め得ないことは前記認定のとおりである。

よつて、原告の右主張請求は、その前提をなす本件後遺障害の残存の点で既に理由がない。

(7) 慰謝料 金二〇〇万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告の本件慰謝料は金二〇〇万円と認めるのが相当である。

(8) 原告の本件損害(ただし、人損分。)合計額 金四八七万二七七五円

(9) 原告の本件外傷性横隔膜ヘルニアの発現に同人の先天的体質が寄与していたと認め得ることは、前記認定のとおりである。

右認定事実に基づくと、原告の右認定にかかる本件損害額の全てを被告藤原に負担させることは、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨目的に適合しないというべく、かかる場合には、原告の右体質が右損害の発生・拡大に寄与する割合に応じて、被告藤原の責任、したがつて、その負担する損害額も軽減させるのが相当である。

しかして、本件においては、前記認定の関連全事実関係から見て、右説示にかかる原告の体質の本件寄与割合は、四〇パーセントと認めるのが相当である。

右説示にしたがい、原告の前記認定にかかる本件損害金四八七万二七七五円を四〇パーセント減額すると、原告が被告藤原に請求し得る右損害額は、金二九二万三六六五円となる。

(二) 物損関係

(1) 修理費 金三万五〇〇〇円

証拠(甲四九)によれば、原告は、原告車の本件破損の修理費として金三万五〇〇〇円要したことが認められる。

(2) 原告車の評価損

原告は原告車の本件破損修理による評価損金三〇万円を主張するが、右主張事実を肯認するに足りる客観的証拠がない。

(3) 自動車保険料の割増分

原告主張の自動車保険料の割増分金五一五〇円が本件損害に該当すること(本件事故との間の相当因果関係の存在)を認めるに足りる客観的証拠がない。

(三) 原告の本件全損害(人・物損)額 金二九五万八六六五円

4  過失相殺の成否

(一) 本件事故現場附近の客観的状況、右事故の態様、被告藤原の過失内容等は、前記認定のとおりである。

(二)(1) 原告は、原告車が進行した南北道路は優先道路である旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、証拠(乙一)によれば、本件事故現場には、本件南北道路が優先道路であることを指定する道路標識も、本件交差点において当該道路における車輌の通行を規制する道路標識等による中央線又は車輌通行帯も、設けられていないことが認められる。

右認定各事実に照らしても、原告の右主張事実は認められないし、むしろ、右認定各事実に基づくと、本件南北道路は優先道路に該当しないというべきである。

(2) 本件のように見通しのきかない交差点において、相手車輌の進行する道路に一時停止の標識が設定されていても、それだけでは、他方道路を進行する車輌の徐行義務は免除されないと解するのが相当である。(最高裁昭和四三年七月一六日刑集二二巻七号八一三頁参照)

右説示に基づけば、原告車にも、本件交差点に進入しこれを通過するにつき徐行義務があつたというべきところ、原告が右交差点に進入する際原告車を時速約二〇キロメートルの速度で走行させていたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、右事実からすれば、原告は、原告車を右交差点内に進入させるに際し徐行しなかつたというべきである。

又、証拠(乙三)によれば、原告は、右交差点へ進入するに際し、自車右前方の交通の安全を十分確認しなかつたことも認められる。

(3) 右認定説示を総合すれば、結局、本件事故の発生には、原告の徐行義務違反、自車右前方の交通安全確認義務違反の過失も寄与していたというべきである。

しかして、原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当であるところ、右斟酌する右過失の割合は、被告藤原の本件過失と対比して、全体に対し二〇パーセントと認めるのが相当である。

(三) ところで、本件過失相殺に関し、本件念書の存在は、前記のとおり当事者間に争いがなく、原告において、右念書の効力として本件過失相殺を否定するので、この点について判断する。

(なお、原告の右主張の趣旨は、必ずしも明確でないが、その主張内容から、要するに、被告藤原が右念書において本件過失相殺の主張を放棄したとの趣旨であると解する。)

(1)(イ) 確に、本件念書には、昭和六〇年二月一四日付で、「この事故の一切の事柄(修理費、治療関係費、休業損害費、慰謝料、通院交通費)について、全責任を持ちます。」と記載されている。

しかしながら、右念書の右記載は原告の右主張の趣旨であることを肯認するに足りる証拠がない。

(ロ) かえつて、証拠(乙二、被告藤原本人。)によれば、被告藤原は本件事故当時一八才(昭和四一年九月一二日生)であり、高校を卒業したばかりであつたこと、本件念書は、被告藤原が原告に謝るべく一人で原告宅を訪ねた際作成されたものであること、被告藤原は、原告の夫から同人のいうとおり書けと申し向けられ、右念書を作成したこと、右念書の文言は全て原告の夫が考え出したこと、被告藤原は、右念書作成当時、念書が何なのか理解できず、右念書の右記載内容についても、その全部を理解できなくて、ただ同人において原告側の本件修理費、治療費を全部払うという内容である旨理解しただけであつたこと、まして、被告藤原は、右当時、過失相殺の目的機能等を全く知らず、そのことを意識すらしていなかつたこと、原告の夫も、右念書作成時、過失相殺のことを話題にしなかつたことが認められ、右認定各事実に照らしても、原告の右主張事実は、未だこれを肯認するに至らない。

むしろ、右認定各事実を総合すると、右念書の右記載内容では、被告藤原が本件過失相殺の主張を放棄することまで合意されていないと認めるのが相当である。

よつて、原告の右主張は、理由がなく採用できない。

(四) そこで、前記認定にかかる原告の本件総損害金二九五万八六六五円を前記過失割合で所謂過失相殺すると、その後において原告が被告藤原に対して請求し得る本件損害額は、金二三六万六九三二円となる。

5  損害の填補

(一) 原告が本件事故後被告藤原から本件損害に関し金一〇万〇九二〇円の支払いを受けたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

(二) 証拠(乙九の三、証人永井。)によれば、原告が本件事故後、本訴請求損害費目に関し自賠責保険から直接受領した保険金は、金九〇万四七四〇円であつたことが認められる。

(三) 原告の右受領金合計金一〇〇万五六六〇円は、同人の本件損害に対する填補として、同人の前記認定にかかる本件損害金二三六万六九三二円から控除されるべきである。

右控除後の右損害は、金一三六万一二七二円となる。

6  弁護士費用 金一四万円

前記認定の本件全事実関係に基づき、本件損害としての弁護士費用は、金一四万円と認める。

三  原告と被告井上関係

1(一)  本件事故中発生日時、発生場所、原告車と被告車の衝突の各事実は、前記のとおり当事者間に争いがない。

(二)  本件事故の態様は、原告と被告藤原関係において認定したとおりであるから、右認定をここに引用する。

2  被告井上の本件責任原因

(一) 自賠法三条関係

証拠(乙九の一、被告藤原本人。)によれば、原告車の本件事故当時における所有者は、被告井上であつたことが認められる。

右認定事実に基づけば、被告井上には、自賠法三条により原告の本件損害を賠償すべき責任がある。

本件において、右認定説示を妨げる事由の主張・立証はない。

(二) 民法七一五条関係

被告井上が民法七一五条に基づき本件責任を負うためには、被告藤原において本件事故を被告井上の業務の執行につき惹起したことが必要であるところ、原告は、右要件について明確な主張をしないし、右要件事実を肯認させる的確な証拠もない。

かえつて、証拠(乙二、被告藤原本人。)によれば、被告藤原は、本件事故当時、被告井上の経営するそば店にアルバイトとして勤務していたこと、被告藤原は、右事故当時、右アルバイトを終了し、友人宅を訪ね、同所から自宅へ帰る途中であつたこと、同人の服装は右事故当時アルバイト従事中のものでなかつたことが認められ、右認定各事実と当事者間に争いのない右事故発生時間とに照らすと、未だ右要件事実の存在を肯認するに至らない。

よつて、原告の右主張は、その余の主張事実について判断するまでもなく、右説示の点で既に理由がない。

3  原告の本件受傷内容及び後遺障害の存否

(一) 原告の本件受傷中に外傷性横隔膜ヘルニアが含まれること、同人に本件後遺障害の残存が認め得ないことは、原告と被告藤原関係において認定したとおりであるから、右認定をここに引用する。

(二) 証拠(甲六)によれば、原告は、本件事故により、右外傷性横隔膜ヘルニアに加え、頸椎捻挫、腰椎捻挫を受傷したことが認められる。

4  原告の本件損害の具体的内容及びその金額

(ただし、原告と被告井上関係では、人損のみである。)

(一) 原告の本件損害(人損)の具体的内容及び合計額が金四八七万二七七五円であることは、原告と被告藤原関係において認定したとおりであるから、右認定をここに引用する。

(二) なお、被告藤原が主張する、原告の本件損害額に対する前記減額事由は、被告井上においてこれを援用せず、又、被告藤原も、被告井上との関係で明示の補助参加の申出をしていない故、原告と被告井上間の本件損害額の認定に当たり、これを採用することはできない。

5  弁護士費用 金四九万円

前記認定の本件全事実関係に基づき、本件損害としての弁護士費用は金四九万円と認める。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六〇年二月一〇日午後八時四五分頃

二 場所 神戸市垂水区日向二丁目四番六号先路上(信号機の設置されていない交差点)

三 加害(被告)車 被告藤原運転の原動機付自転車

四 被害(原告)車 原告運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 原告車が本件交差点の南北道路を南から北へ向け進行し、右交差点内を通過して右交差点北側道路へ進入した時、右交差点東西道路を東から西へ向け進行して来た被告車が、右交差点内を通過中の原告車と衝突するのを避けるため、右方(北方)へ大きく方向転換をし、原告車に追従する形で右北側道路に進入し、同所で、被告車の前部を原告車の運転席右側に衝突させた。

(別紙添付図面一のとおり。)

以上

事故現場

<省略>

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